基本的なショットは一通り打てるようになった。練習ではラリーが続くし、良いボールも打てている。それなのに、なぜか試合になると大事な場面でミスが出たり、競り負けたりしてしまう…。もしあなたがそんな悩みを抱えているなら、その原因はショットの精度やパワー不足ではないかもしれません。
ダブルスで勝敗を分けるのは、個々のショットの打ち方以上に、それらの技術を「いつ・なぜ使うのか」という戦術理解度なのです。この記事は「試合を支配する5つの戦術」を個別の技術ではなく「思考法」に焦点を当てて徹底解説する戦術の教科書です。
まずは個々のショットの打ち方からしっかり固めたいという方は、以下の記事で基本を確認するのが上達への近道です。
なぜ勝てない?ピックルボールは「戦術」の理解度が9割

「基本的なショットは打てるのに、なぜか試合に勝てない…。」多くの人が抱えるこの悩みの原因は、実は技術ではなく「戦術」の理解度にあります。まずは、なぜ戦術が重要なのかを紐解いていきましょう。
「ショットは上手いのに…」中級者が陥りがちな壁とは?
強いドライブが決まると気持ちいいですよね。しかし、その1本でポイントが決まらない場面も多いはずです。中級者が陥りがちな壁、それは「良いショットを打つこと」自体が目的になってしまうことです。
- ラリーは続くけれど、決定打が奪えない
- 競った場面で、先に自分たちがミスをしてしまう
- 相手に揺さぶられると、簡単に陣形が崩れてしまう
これらの現象は、どの場面でどのショットを選択すべきかという「判断の基準」がないままプレーしていることが原因かもしれません。ですが、安心してください。これはあなただけではなく多くの中級者がぶつかる壁なのです。
勝敗を分けるのは個人の技術力よりペアとの連携
ピックルボールのダブルスはテニスやバドミントン以上にペアとの連携が重要になるスポーツです。なぜならコートが狭くネット際の攻防が多いため、2人の間にわずかな隙間ができただけでも致命的な失点に繋がるからです。個々の技術力が高くても、2人の動きがバラバラではコートに簡単に穴が生まれてしまいます。
強いペアは個人の能力を足し算するのではなく、連携によって掛け算にしています。2人でコート全体を守り、攻撃することで1+1が3にも4にもなるのです。
「パートナーがミスをした」と感じる前に、ペアとして最適な動きができていたか。こちら側でフォローできることは無かったか。まずはそこから見直すことが、勝率アップへの第一歩です。
試合の勝率を上げる5つの必須戦術

この記事は特定のショットの打ち方(How)を解説するものではありません。「なぜその場面で、そのコースに打つのか(Why)」という戦術的な思考法を身につけることを目的としています。
これからご紹介する5つの戦術は、多くの上級者が試合中に無意識レベルで実践している、いわば試合の組み立て方のセオリーです。これから紹介する5つのポイントを意識するだけで、あなたのプレーは劇的に変わり、試合の流れを自分たちでコントロールできるようになるはずです。
戦術①:試合の流れを決める「3球目」の状況判断
ピックルボールにおいて、試合の流れを大きく左右する最も重要なショットが「3球目」です。3球目とは、「サーブ → リターンの後の最初の返球」です。ここでの選択が、そのポイントの主導権を握れるかどうかの分岐点となります。
3球目の主な選択肢は「ドロップ」と「ドライブ」の2つです。
1. 3球目をドロップショット で返球
ネット際のノンボレーゾーンの近くに、ふわりとボールを落とすショットです。主な目的は、相手に強い攻撃をさせず、自分たちが安全にネットポジションへ詰めるための「時間を作ること」です。相手が前に詰めてきている場面では、最も効果的な選択肢となります。
2. 3球目をドライブショットで返球
低く速いボールで、相手プレーヤーを直接狙ったり、間を抜いたりする攻撃的なショットです。相手のリターンが浅くチャンスボールになった時や、相手の動きが遅いと感じた時に有効です。ただし、ネットにかかるリスクや、カウンターされる危険性も伴います。
「とりあえずドロップ」から卒業し、相手のポジションとリターンの質を見ます。そのうえで、どちらのショットが有効かを判断する意識を持ちましょう。中級者がやりがちなのは、リターンが深く相手がまだ後ろにいるのに、焦ってドライブを打ってしまうミスです。
戦術②:失点を激減させる鉄壁のコートポジショニング
ピックルボールのポジショニングには、並行陣や雁行陣といったフォーメーション論など、学ぶべきことが多くあります。しかし、まず中級者が意識すべきは、失点をしないための最も基本的なペアの動きです。このセクションでは守備をするための「たった一つの原則」に絞って解説します。
※フォーメーションの種類や、より高度なポジショニング戦略については、こちらの記事で体系的に学ぶことができます。
うまいダブルスペアは、まるで2人が見えない紐で繋がっているかのように常に一定の距離を保ちながら連動して動きます。これができれば、コートの穴がなくなり、失点を劇的に減らすことができます。
1. 最も狙われる「真ん中のボール」の処理
ペアの真ん中は、最も狙われやすくお見合いによる失点が生まれやすい場所です。
- 基本ルール: フォアハンドで打てる選手が積極的に取る。
- 声かけ: どちらが取るか迷ったら、必ず「OK!」「ゴー!」など声を出す。
よくある失敗例はパートナーが左右に振られているのに、自分は定位置から動かず2人の間に大きなスペースができてしまうことです。個人のフットワークだけでなく、常にパートナーの位置を把握し、2人でコートを守る意識を持ちましょう。
2. 基本は「左右のスライド」
ボールがコートの右側にあればペアも揃って右へ、左側にあれば左へ。2人の間隔(約2.5m〜3m)を常に保つことを意識しましょう。1人が動いたら、もう1人も必ずそれに合わせて動くことで、2人の間にボールを通されるのを防ぎます。まずは失点リスクの高いペアの真ん中をしっかり防ぎましょう。
戦術③:攻撃の起点を作るディンク戦の組み立て
ネット際でのディンクの応酬。これを「ひたすら我慢する時間」だと思っていませんか?実はディンクは守備のためだけでなく、攻撃のチャンスを作り出すための重要な「仕掛け」なのです。目的は相手を前後左右に動かして陣形を崩し、甘い返球を誘うことです。
- クロスに深く: 相手をコートの外側に追い出す。
- ストレートに短く: 相手を前に引きずり出す。
- 2人の真ん中へ: 相手の連携を乱す。
このように意図を持ってコースを打ち分け、相手が体勢を崩して少しでもボールを浮かせた瞬間を見逃さないでください。その「浮いたボール」こそが、守備から攻撃へ転じる絶好のチャンスです。すかさず強く叩き、ポイントを奪いに行きましょう。
戦術④:ペアで仕掛けるゲームプランと配球戦略
相手の弱点を観察することは重要ですが、単発でそこを突くだけでは攻撃が読まれやすくなります。一歩進んだ戦術は、「どの弱点を、自分たちのどの得意な形で攻めるか」というゲームプランをペアで共有し、実行することです。
「自分たちの強み × 相手の弱み」でプランを立てる
まず試合序盤で相手を観察し、「相手のA選手はバックハンド側の返球が甘くなりがちだ」という弱点を見つけたとします。一方で、「自分のパートナーであるB選手はフォアハンドの強打が得意」という強みがあるとします。
この2つを掛け合わせ、まずは自分がA選手のバック側にボールを集めるようにします。そこで甘くなった返球をパートナーのB選手にフォアで決めてもらうという勝利の方程式(ゲームプラン)を立てるのです。こういったゲームプランは、チェンジコートの際にパートナーと簡単な言葉で共有するだけで構いません。
この共通認識があるだけで、漠然とプレーするペアとの差は歴然です。ただ弱点を突くのではなく、自分たちの得意な形に持ち込むための配球を意識しましょう。
戦術⑤:ペアで仕掛けるサーブ&リターンの連携術
サーブとリターンを「個人プレー」だと思っていませんか?実はダブルスではここから既にペアとの連携が始まっています。ただボールを入れるだけでなく、「次の1球をパートナーにどうアシストするか」という視点を持つことで、試合の主導権を握ることができます。
1. サーブ側の連携術:パートナーにパスをする
サーバーの役割はただサーブを入れることではありません。「パートナーが次に攻撃しやすくなるようなリターンを相手に打たせること」が理想です。例えば、相手のバックハンド側にサーブを打つのは、窮屈な体勢から甘いクロスリターンが返ってくる確率が高いからです。
それを読んでサーバーのパートナーはボレーで叩く準備をします。このようにサーブのコース選択一つで、パートナーのために攻撃のチャンスを創出できるのです。
2. リターン側の連携術:2人でネットを取るための「時間」を作る
リターン側の目的はシンプルです。「パートナーと2人で、相手より先にネット前の攻撃ポジションに着くこと」。そのために最も重要なのが、リターンをする側が「時間」を作ることです。
コートの深い位置へ、そして少し山なりの軌道でリターンを返すことでボールが相手コートに届くまでの時間を稼ぎます。その間にリターン側もネットへ近づき、相手が3球目を打つ前により有利なポジションを確保するのです。
浅いリターンだと相手に時間を全く与えず、前に詰める時間もないまま強烈なショットを打ち込まれてしまうため、深い位置へリターンできるように日頃からイメージすることが大事です。
まとめ
ここまで試合の勝率を上げるための5つの戦術を解説してきました。ただし、5つの戦術すべてをいきなり完璧に実践する必要はありません。一度に多くのことをやろうとすると判断に迷い、ミスを生むことになりかねません。
まずは1つの戦術からを意識するだけで試合は変わります。 「次の試合では、3球目の判断だけを意識してみよう」というように、テーマを1つに絞って試してみてください。たった1つのことを意識するだけで試合内容が大きく変わることを実感できるはずです。
戦術という武器を手に、コートで新たな勝利の喜びを掴んでください!